翻訳コーディネーターをしていると、翻訳者さんから「納期に遅れてしまいそうです」という連絡をいただくことがあります。
- 仕事を受けすぎてしまい、納期に間に合わない
- 思ったよりリサーチなどに時間がかかり、納期に遅れそう
- 体調不良になってしまい作業ができず、納期に間に合わない
- 子供や家族の病気で看病が必要になり、納期に間に合わない
- 納期を勘違いしていた、忘れていた
- 納品メールを送信したつもりが、送信されていなかった
- インターネットが不調で作業が進まない
- PCが壊れてしまって作業ができない
これらはすべて僕が実際に翻訳者さんからいただいたことのある納期遅延の内容です。
連絡をくれる訳者さんはまだよくて、納品時間になっても連絡もなしに納品が無いこともあります。
やむを得ない事情もあるでしょうが、納期遅延は翻訳者さんの評価にかなり大きなマイナスとなってしまいます。
とはいえ、やむを得ずそんな状況になってしまったときはどうすれば良いのでしょうか?
そこで今回は翻訳納期が間に合わないときの対応方法について解説していきます。
この記事を読むとこんなことがわかります。
- 翻訳納期ってどうやって設定しているの?
- どうしても納期に間に合わないときはどうしたら良いの?
- 納期が遅延するとどうなるの?
- 納期遅延を防ぐ対策6選
くん太
- 北海道から上京し、都内某翻訳会社で翻訳コーディネーターとして10年勤務
- 現在は脱社畜してwebライターとして活動中
通りすがりのウシ
- たまに通りがかっては何かとツッコミをいれてくる
- 普段は牧場でのんびり草を食べている
納期に間に合わない場合の対応法
どれだけ気をつけていても想定外のことは起こりますし、人間なので失敗してしまうこともあります。
どうしても納期に間に合わない場合は下記のように対応しましょう。
▲気になる箇所にジャンプできます。
遅れるとわかった時点ですぐに連絡する
事情により翻訳納期に間に合わない場合は、発覚した時点ですぐに翻訳コーディネーター(クライアントと直契約のときはクライアント)に連絡しましょう。
翻訳の後工程の作業者全員のスケジュールに影響を及ぼすだけでなく、最悪クライアントにも迷惑をかけてしまうため、納期遅延の連絡を受けた翻訳コーディネーターはすぐにそれらの調整を始める必要があります。
「言いづらくて連絡がギリギリになってしまった」ということがないように、判明次第早急に連絡するようにしましょう。
翻訳が遅れる理由を伝える
納期遅延の連絡をする際は
「体調不良で作業が予定通りに進まず、ご指定の納期を過ぎてしまいます。」
「調査に予想以上に時間がかかっており、納期が遅れてしまいます。」
など、理由を添えるようにしましょう。
- 他案件を優先していた
- 納期を勘違いしていた
- 忘れていた
など、言いにくい理由もあるでしょうが、必ず理由は添えるようにしてください。
理由がないと、なぜ遅延したのかがわからず翻訳コーディネーターはさらに不審に思ってしまいます。
納品可能時間を伝える
「◯◯時までには納品いたします。」
という具合に、必ず納品可能時間を伝えて下さい。
この際、ギリギリの時間を伝えずに必ず余裕を持った納品可能時間を伝えて下さい。
納期に遅れると焦ってしまい、ついつい少しでも早めの時間を伝えてしまいがちです。
しかし焦っているときは作業も思うようにいかず、想定以上に時間がかかったりしてしまうものです。
「◯◯時とお伝えしましたが、やっぱりあと一時間かかってしまいそうです。」
「すみません、やっぱりあと30分ください」
などと何度も延長してしまうと、その都度予定を組み直さなくてはならずかえって迷惑をかけてしまいます。
「こんな時間を伝えたら案件をキャンセルされるのではないか?」と心配になるかもしれませんが、気合だけで翻訳を終えることはできません。仕上がらないものは仕方ないのです・・。
伝えられた納期が翻訳会社にとってアウトだった場合も、早めに連絡をすればクライアントに報告するなど翻訳会社でも早急な対策が可能です。
そのため、確実に納品できる時間を伝えるようにしましょう。
翻訳納期の設定方法
そもそも翻訳納期はどのように決められているの?
翻訳納期はさまざまな要素をもとに算出されます。
- 原文のボリューム
- 言語ペア(日本語→英語、英語→日本語など)
- 原稿の状態(PDFデータ、Wordファイル、紙原稿など)
- 原稿の内容(難易度など)
- クライアントの要望(品質重視、納期重視など)
翻訳コーディネーターは、翻訳者が1日に翻訳できる一般的な処理速度をもとに納期を算出します。
原文のボリュームが多いと当然翻訳納期も長めに設定されます。
日本語原稿→原文の文字数をカウントする
英語原稿→原文のワード数をカウントする
中国語→原文の文字数カウントする
翻訳者の一般的な処理速度
英語から日本語への翻訳
約1,500〜2,000ワード程度/日
納期設定の例
原文5,000ワードの場合→3〜4日程度
日本語から英語への翻訳
約3,000〜4,000文字程度/日
納期設定の例
原文8,000文字の場合→2〜3日程度
中国語から日本語への翻訳
約2,600〜3,900文字程度/日
納期設定の例
原文8,000文字の場合→3〜4日程度
上記はざっくりとした納期設定になります。
実際には翻訳支援ツール使用の有無やクライアントの希望納期など、諸条件により前後します。
また、ここでいう翻訳納期は、クライアントへの納期とは別です。
クライアント納期設定はここからさら翻訳後の作業工程を足して設定されます。
クライアント納期の設定方法
翻訳から納品までに設定される工程は翻訳会社によって違います。
また、クライアントの求めるレベルや作業方法などによっても変わります。
ここでは一般的な工程について解説します。
翻訳→校正→レイアウト→最終チェック→納品
翻訳後にはこのようにさまざまな工程を経てクライアントに納品されます。
そしてこれらすべての工程にそれぞれ作業納期が設定されています。
翻訳納期
上述の通り、原文ボリュームなどをもとに翻訳者の納期が設定されます。
原文ボリュームが大きくても、翻訳支援ツールを使って重複箇所を除くことで作業効率アップが見込まれる場合はその分納期も短く設定される場合があります。
校正納期
翻訳作業のあと、通常は第三者による校正(チェック)作業が入ります。
校正作業では原文と訳文を突き合わせて、訳抜けや誤訳がないか、スペルミスなどのケアレスミスがないかなどチェックします。
ここでも校正者の作業分の納期が設定されます。
レイアウト納期
訳文のレイアウトを整える作業です。
翻訳をすると文字列の長さが変わるため、Wordなどで作成された原稿のレイアウトが崩れてしまいます。
レイアウト調整は翻訳コーディネーターが行う場合もありますが、複雑な調整は外部の作業者に依頼します。
そのため作業難易度や分量(ページ数)に応じてレイアウト作業分の納期が設定されます。
最終チェック納期
すべての作業が終わった訳文を最終チェック(検品)します。
翻訳コーディネーターが行う場合が多いですが、作業内容によって細かくて膨大なチェックが必要な場合はこの最終チェックも外部の作業者に依頼する場合があります。
当然、その分の作業時間を確保するために最終チェック作業の納期が設定されます。
納品
このように、すべての工程を経てようやくクライアントに翻訳物が納品されます。
翻訳納期が何らかの理由で遅延すると、翻訳コーディネーターは翻訳後の工程について、すべてのスケジューリングを再設定することになります。
後工程に関わる作業者全員に「急なスケジュール変更」という多大な迷惑をかけてしまうことになるのです。
翻訳納期が遅れたときの翻訳会社内の様子
納期遅延が発生したら翻訳会社ではそのあとどう調整してるの?
いろんなパターンがありますけど、一般的なのはこんな感じですね。
とある1日
すみません、本日12時納期予定の訳文ですが、納品が遅れてしまいそうです。
え、そうなんですね。承知いたしました。いつ頃納品していただけそうですか?
14時までには納品出来ると思います。
承知いたしました。お待ちしてますね。
引き続きよろしくお願いいたします。
→次の工程の校正者にスケジュール変更の連絡
すみません、本日12時にお送りする予定だった翻訳の作業に遅れが生じていて、送付が14時頃になってしまいそうです。
えー、そうなんですか。他の案件もあるのでなるべく早く送って下さい。作業開始が遅くなるのでその分納期も2時間延長してもらえますか。
承知いたしました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
→校正者の次の工程、レイアウト調整の作業者にも変更の旨を連絡
すみません、明日10時にお送りする予定だった訳文データですが、作業に遅れが生じていて、送付が明日の12時頃になってしまいます。
えー、明日はちょっと用事があるのでスケジュール変更は対応できないです。すみませんがキャンセルさせてください。
承知いたしました。この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません・・。
急いで別の作業者を手配しなくちゃ・・!
このようになんとか後工程で調整できればクライアントに迷惑をかけずにすみますが、遅延の度合いが大きいと調整が効かず、クライアントにも迷惑をかけてしまう場合がります。
- 他の作業者さんのスケジュールを短縮してもらう
- 途中まで出来ている場合は、出来ているところまで先に分割して送ってもらう
- 急遽他の翻訳者と分担して翻訳作業をする
など、あの手この手で調整を行うので、少しでも早く遅延連絡をするようにしましょう。
遅延したらペナルティはあるの?
翻訳納期が遅延したら翻訳会社からペナルティってあるの?
ペナルティについては翻訳会社によって違うようです。
翻訳会社によっては「報酬から減額される」、または最悪の場合「登録を抹消される」ということもあるようです。
僕の所属している翻訳会社では、よほど悪質でない限り翻訳者への具体的なペナルティはありません。
しかし、「遅延した」という情報はデータベースに蓄積され、その情報は他の翻訳コーディネーターにも共有されます。
不適切な理由で遅延が繰り返されると翻訳コーディネーターのブラックリスト入りをしてしまい、自然と翻訳依頼がなくなってくということになってしまいます。
納期遅延を防ぐための対策6選
誰しもがやりたくて納期遅延をするわけではありません。
納期遅延を防ぐにはどうしたら良いのでしょうか。
ここでは翻訳納期遅延対策を6つご紹介いたします。
1.自分のキャパシティを把握しておく
翻訳コーディネーターは原文のボリュームなどから一般的な翻訳速度で納期を算出しますが、実際の翻訳速度は翻訳者さんによってさまざまです。
自分がどのくらいのスピードで、どのくらいの量を翻訳できるのか、「処理速度」や「キャパシディ」を把握しておきましょう。
2.納期設定に見直しや予備の時間も含める
納期設定をするときは以下のような点に注意しましょう。
- 1日何時間作業が可能なのか確認する
- 見直しの時間は取っているか
- 予備の時間は取っているか
例えば下記の打診メールを月曜日の朝に翻訳コーディネーターからもらったとします。
言語:英語→日本語
分量:原文5,000ワード
納期:金曜日の17:00
1日の作業分量
すぐに作業を開始できるとして、月曜日〜金曜日17時までで5日間作業時間を確保できます。
つまり1日あたり1,000ワードほど翻訳をしていくことになります。
1時間あたりの作業分量
あなたが朝の9時から夕方の17時まで翻訳をして、途中昼休憩1時間を入れる場合、1日の作業時間は7時間です。
そうすると1時間あたりの作業量は
1,000ワード÷7時間≒143ワードです。
でもここで注意が必要です。
この計算だと、金曜日17時ギリギリに仕上がることになります。
これは大変危険です。
不測の事態が発生したら即納期遅延です。
そのため余裕をみて、できれば金曜日13時の納品を目指すとします。
さらに、翻訳後は見直しの作業が必要です。
見直しにかける時間は人それぞれですが、ここでは金曜日の朝から見直しをするということにしましょう。
そうなるととりあえずの翻訳完成は木曜日の17時にする必要があります。
翻訳に確保出来る時間は4日に縮みます。
1日あたりの翻訳量
5,000ワード÷4日=1,250ワード
1時間あたりの翻訳量
1250ワード÷7時間=179ワード
このようなペースを目標に翻訳を進めていくことになります。
ここで挙げている作業時間はあくまで参考の目安ですが、案件の内容やボリュームによって適切な見直し時間や予備時間を考慮してください。
その上で提示されている納期での対応が可能かどうか確認するようにしましょう。
3.自分の得意分野、不得意分野を把握しておく
単純なボリュームだけではなく、原稿の内容や難易度によっても処理速度は変わってきます。
自分の「得意な分野」と「不得意な分野」を把握しておきましょう。
得意分野は翻訳会社にも伝え、アピールすることで得意分野に関する依頼を回してもらいやすくなります。なるべく具体的に伝えるようにしましょう。
不得意分野についても依頼時に考慮してもらいやすくなるので、伝えておくと良いですよ。
4.原稿を入手したら後回しにせずすぐに内容を確認する
翻訳コーディネーターからの案件相談連絡に、分量や納期など基本的な情報が記載されています。
しかしそれだけでは作業にかかる時間を算出することはできません。
原稿を入手したら必ず「原稿内容」や「難易度」を確認し、翻訳コーディネーターが提示してきた納期で対応が可能かどうか慎重に判断しましょう。
あとで翻訳を始めるときに確認しようと思っていると、
「いざ始めてみたら思っていたより難易度が高かった。」
「苦手な分野の原稿だった。」
など、予定のスケジュール通りに進められず、納期遅延につながる場合があります。
5.余裕を持ったスケジューリングをする
納品スケジュールは可能な限り余裕を持たせるようにしましょう。
ギリギリの納期で組んでしまうと、想定外の事態が起こった際に即「納期遅延」につながってしまいます。
不測の事態はつきものです。
- 急にネットにつながらなくなった
- 急用でどうしても外出しなくてはいけなくなった
- 見直しをしていたら訳抜けが見つかって急いで対応しなくてはいけなくなった
- すでに納品済みの別件で不備が見つかり、急遽そちらの対応をしなくてはいけなくなった
など
「そもそもクライアントの希望納期がギリギリで納期に始めから余裕がない」という場合も多々あるかとは思いますが、可能な限り余裕をもったスケジュールを心がけるようにしましょう。
6.体調管理をしっかりする
フリーランス翻訳者の辛いところですが、途中で体調不良になってしまっても代わりに作業をしてくれる人はいません。
そのため体調管理にはくれぐれも気をつけるようにしましょう。
案件が立て込んでくると睡眠を削ってまで仕事をしなくてはならない状況がありますが、睡眠不足は体調不良を招くだけでなく翻訳の品質にも大きく影響してしまいます。
無理をせず、体調がよくないときは新規の案件を受けるのを控えるなど、体調によって作業量をコントロールするのも重要です。
まとめ
納期遅延は内部要因だけでなくさまざまな外部要因などでも起こってしまいます。
そのときは「迅速」に「誠実」に対応し、ダメージを最小限に留めるようにしましょう。
翻訳納期がどうしても遅れてしまいそうなときは
- 遅れるとわかった時点ですぐに連絡する
- 翻訳が遅れる理由を伝える
- 納品可能時間を伝える
納期遅延を起こさないためには
- 自分のキャパシティを把握しておく
- 納期設定に見直しや予備の時間も含める
- 自分の得意分野、不得意分野を把握しておく
- 原稿を入手したら後回しにせずすぐに内容を確認する
- 余裕を持ったスケジューリングをする
- 体調管理をしっかりする
納期に追われて無理をしても、体調面でも品質面でも良いことはありません。
フリーランスとして長く活躍していくためにも、できるだけ無理せず余裕を持った納期でスケジューリングをするようにしましょう。
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